渡部さとる 『旅するカメラ』『旅するカメラ2』
今週もまた,エイ文庫シリーズの紹介。
今回は,渡部さとるさんの「旅するカメラ」シリーズ。
渡部さんは新聞社のカメラマンを経験した後に独立された方で,自身の失敗経験やプロになることの大変さやカメラへの想いなどが語られた,とても楽しいエッセイ集です。
藤田一咲さんのと同様,写真の撮影術的なことはほとんど書かれていませんが,渡部さんもテキストが非常にうまく(もちろん,掲載されている写真もとても良い),写真やカメラと向き合う姿勢や考え方が伝わり,とても楽しく,参考になりました。
この本を読んで面白かったのは,ピントの話とたくさんの失敗の話。
ピントの話
ピントを合わせることがかつては「技術」だった話。
今では大部分の機種がオートフォーカス(AF)となっており,マクロ撮影とか檻の向こうの動物とかを撮る時以外,おいらもほぼAFで撮影しています。
でも,ミノルタαが出る前は,みんな,手でグリグリとピントを合わせていたんですよね。
そういや,おいらのCONTAX 167MTもマニュアルフォーカス。デジカメを買う前は,これでなんの疑いもなくグリグリやってたなぁ・・・。
AFが登場する前の,新聞社の野球中継担当カメラマンは,バッターが打った次の瞬間には,横っ飛びでボールをキャッチするショートを,300mm望遠でピントを正確に手で合わせて撮っていたそうです。300mmをマニュアルで,しかも動体を撮るのです。すごいなぁ・・・。
今じゃ,プロでもAFが当たり前になり,雑誌や一部のマニアサイトなどでは「あのカメラは,AFの精度が悪く,数mm程度前ピン傾向があり,使い物にならない」とか言われたりするのですが,この時代の人たちから見ると,
「ア~ホか! ピントは自分で合わせるもんなんじゃ!」
と怒られそうです。
昔は,「僕は動くものにピントを合わせられます」というだけで技術として認められ,食べていけたそうです。(^^)
失敗の話
渡部さんが新聞社でカメラマンをやっていた頃から,プロになってまでにやったたくさんの失敗やヒヤリとした経験について,とても楽しく書かれています。
フィルムがスプロケットに噛んでなく,全部撮り終えたつもりで,実は一枚も撮れてなかった失敗や,目をつぶって暗室作業をしていて,ふと目を開けたら,光が漏れていてフィルムはすべてパァ~にした経験などなど。
最近のおいらがD70を使ってて良くやる失敗は,ISO感度の戻し忘れ(夜1600とかにして,翌朝もそのまま撮ってる・・・),撮影モードが絞り優先じゃなくてシャッター優先になってる,とんでもない露出補正がかかったまま撮っている,などなど。
いつまで経っても,失敗は減らない。
渡部さんは海外ロケに行っても,取り終えたフィルムの山(日本に持ち帰って現像する)を見ていると,どんどん憂鬱になってくるそうです。
「もし,写ってなかったらどうしよう・・・」
そんな,楽しい失敗(今だから「楽しい」なんて言えるんだろうけど)がたくさん語られ,とても参考になります。
カメラと写真についての愛が感じられる,とても楽しい本でした。
そして,今日も,明日も,おいらも失敗し続けます。
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