内田ユキオ 『ライカとモノクロの日々』
またまた,えい文庫のカメラ本シリーズ。
今回は一番最近読んだ,内田ユキオさんの『ライカとモノクロの日々』。藤田一咲さんの『ハッセルブラッドの時間』を読んだ時と同じく,実は「ライカ」にはあまり興味はありません。
だけど,「モノクロ」というところに惹かれて,ちょっと立ち読みしてしまったら,写真もさることながらエッセイの本文の方に参ってしまいました。
この本は,タイトルこそ「ライカと・・・」となっていますが,ライカの話題はほとんど出てきません。
全部で17編のエッセイが収められているのですが,そこで語られているのは,モノクロ写真の良さ,写真を撮ることの楽しさ,自身がカメラマンになるに至った話などです。
特に良かったのは,初めて自家現像をする友人にやり方を教える話と,写真と想像力の話です。
前者は,写真をやったことのある人なら誰でも味わうであろう楽しさが語られています。
心に残った場面や人を,写真という形で作って残すという行為。そのフィルムやネガやポジの中には,思い出が定着されて残っていく。
初めて自家現像をした友人の作品を暗室の中で紐に吊って乾かしていくと,そこには自分(内田さん)の笑顔が浮き上がってくる・・・。いいなぁ・・・。
好きなものや思い出が形で残る楽しさ。写真の原点だろうなぁ。
で,もう一つ気に入った話は,想像力と写真の話。
最近のデジカメはどんどん性能が向上しているし,フィルムだって良くなってきている。そして,彩度やコントラストが強調され,本当に美しい色を出せるようになってきている。
でも,それでも,どんなに美しい色を出せるようになっても,「想像力」には勝つことができない。
そのパワーを一番使うことができるのが小説であり,たった一行,「その空は,今までに見たことのないくらい深く,青い空であった」と書けば,それは「一番青い空」なのです。
カラーフィルムではこうはいかない。ベルビアだって,フォルティアには勝てないし,PLやブルーエンハンサーを付ければもっと青くできるし,いつまでたっても「一番青い空」は表現できない。
モノクロ写真での空は濃いグレーで表現されるけど,その色は,いつだってカラーで撮った一番青い空よりも,ほんの少しだけ青い。想像力という力を借りて。
おいらも,チビ達を背中(や後頭部)から撮ることが多いけど,その方がチビ達の表情を無限に想像できるからです。
うそです。
そんなに深く考えたことないです。ただ単に,チビ達の走る速さに追いつけず,後ろ姿ばっかりになっているのです・・・。
これからは,こうした「想像力を呼び起こす」写真も撮れるようになりたいなぁ。
というわけで(?),掲載されている写真もさることながら,純粋に小説として読めるくらい面白いエッセイ集でした。多芸な人はいいですなぁ。
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