重松清 『流星ワゴン』

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38歳・秋

「死んじゃってもいいかなあ、もう・・・」

その夜、僕は、5年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。そして・・・


冒頭から,すっかり重松ワールドにハマってしまいました。

主人公は38歳の永田一雄。会社はリストラ(嫌な言葉だ)され,妻はテレクラ,息子は登校拒否に家庭内暴力。家庭は崩壊し,絶縁状態だった父親も余命短く,生きる目的を失った主人公が駅のベンチで,つぶやいたのが冒頭の台詞。

でも,そんな永田にも幸せな時があった。しかも,ほんの数年前まで・・・

そして永田は,5年前に不幸な交通事故で即死した親子が運転する不思議なワゴン車に乗り,過去へさかのぼる旅に出ていく。

そして,そのときには気がつかなかった,「大切な時」に次々と出会う。

子どもが受験のプレッシャーに押しつぶされそうになり,そのシグナルを,小さく小さく送ってきていたのに,「がんばれよ」しか言えなかった時。

妻が見知らぬ男と歩いているところを見かけたが,「そんなはずはない」と心に納めてしまった時。

数年後に迫る家庭崩壊のきっかけになる「大切な時」に,もう一度,主人公は放り込まれる。


ふつうの小説なら,ここで主人公が立ち直り,未来を変えていくのかもしれない。だけど,この小説ではそんな簡単に未来は書き換えられない。

父親と息子の関係を軸に話はすすんでいくが,結局は「現在」と同じように家庭崩壊へ向かっていってしまう。どんなに後悔しても過去は書き換えられない。それは,たとえ,現実にはあり得ないタイムマシンに乗って過去に旅したとしても・・・

それならば,失敗してしまったこと,悔やんでも悔やみきれない過去を受け入れる。忘れるのではなく,自分のこととして受け入れ,そして,前に,未来に進んでいく。幸い,主人公は,「現在がこうなってしまった理由」は知ることができた。ならば,その過去・理由を受け入れて,前を,未来を・・・

全然,ハッピーエンドではない(こともない)けれど,そこから感じられるのは,こんな力強いメッセージでした。

ぶん殴られるような強いメッセージを,ありがとう。
一気にファンになってしまいました・・・


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2005年05月27日 | カテゴリ:  | ID: 141
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