掃除機における「勘合方式」について
掃除機が壊れてしまいました。
購入からわずか1年で,ヘッド部分のブラシを回転させるプーリーが空回りするようになり,プーリー自体は熱で溶け,ブラシは単に「ゴミを吸い込むのを邪魔する装置」と化してしまいました。
でも,よくよく構造を見てみると,「壊れるべくして壊れた」という感じなのです。
最近の掃除機は,ヘッド内のブラシをモーターで駆動するタイプが主流になっているようです。10年前に買った先代の掃除機は,ヘッド内にある小さなフィンを通る風によって駆動していました。それに比べてると,かなりパワフルに回転してくれますし,前進時にはアシスト自転車のように軽く自走してくれます。
壊れてしまったパーツは,このブラシを回転させるために,ブラシ軸に取り付けられているプーリー。モーターからの力をベルトで受けて,ブラシの軸に伝えて回転させてあげるため,軸とがっちりと噛み合わされ(勘合)ています。ちょうど,シマノのクランクで言えば左クランクに相当する感じです。
自転車をやるようになって初めて知りましたが,クランクとクランク軸の勘合方法は長年色々と改良がされてきています。古くは,軸のエンドが四角くなっている「テーパースクウェア」が主流でした。しかし,これだと軸の四隅だけで支えることになり,4点に応力が集中してしまいます。対策としては,多角形にして面を増やしてもも良かったのでしょうけど,多角形化を進めるとそのうち「丸い軸」になってしまって,「トルクを受け止める」どころでは無くなってしまいます。
そこで,登場したのがシマノでは「オクタリンク」。クランク軸に8つのギザギザを付け,それと同じ形状のクランクとがっちりと噛み合わせる方式です。明らかに工作が面倒な形状ですが,簡単に考えて接触面は2倍になり,応力集中が緩和されます。
オクタリンク以降も,ギザギザの個数を10個に増やした「ISISドライブ」の他,各社,BB軸自体を太くしてかかるトルクを減らす工夫など,独自の勘合規格を出してきました。今では,クランク軸とクランクは一体化しているのが普通ですから,左クランクとどうやって勘合するかは各社バラバラのようです。
一方で,リアのスプロケの勘合方法はあんまり進化していない気がしますが,スプロケはフリーホイールと組み合わされるので,軸の直径が大きいですから,かかるトルクがもともと小さく,クランク軸ほどトルク対策をとらなくて良かったからではないかと思います(それでも10個くらいのギザギザが付いています)。
で,前置きがとっても長くなりましたが,問題のブラシ軸がどんな形状をしていたかというと,写真の通り。
なんと,軸の途中にギザギザが彫ってあるだけなのです。
ここに,プラスチック製のプーリーを嵌め,モーターのトルクを一手に引き受けようという設計です。
しかし,軸の直径はわずか2mmほどしかないため,かなりのトルクがかかります。おまけに,昔の掃除機みたいに「風力」で回すのではなく,強大なトルクを持つモーターで回すのです。普段,家の掃除をしていれば分かることですが,ヘッドのブラシ部分は,糸がからまったり,絨毯を巻き込んだりして回らなくなってしまうことは日常茶飯事です。
駆動源がモーターですから,低速領域でもそれなりのトルクがあり,いつかはこのプーリーの勘合部分が負けて崩れてしまうことは簡単に予想できます。
てなわけで,特段荒っぽい使い方をしたわけでもありませんが,壊れるべくして壊れてしまったプーリー。ただ,修理費用の方は比較的良心的で,注文してから一週間で送料込みの800円で自宅に交換パーツが送られてきました(また同じ構造ですが…)
根本的な解決方法はかなり簡単(だと思うんだけど)で,軸を半円形に削るだけ。できれば,イモネジで固定すればベストです。チビ達がしょっちゅう組み立てているTAMIYAの工作セットでは頻繁に登場する造作です。
花粉フィルター機能やらファジー機能やら,意味あるのか無いのか分からない機能が満載の家電製品ですが,自転車では前世紀に解決しているような,単純なメカ構造が弱点になっているのはどうかなぁ,という気がします。
我が家ではたまたま1年で壊れましたが,これが2年でも3年でも大差無しです。形状を見直さない限り,10年以上使える優秀な相棒として使える家電にはなれないでしょう。4万円もする工業製品とは思えないなぁ……。
これから掃除機を買う方は,こんな自転車的視点で,プーリ軸の勘合方法を店員さんに確認してみましょう!(無理か…)
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