生命と自転車の「動的平衡」
生命の設計図,アデニン,シトシン,チミン,グアニン。
見つけた人は本当に凄いなぁ・・・ (@科学未来館)
機械いじりが好きな人が自転車趣味を始めると,多くの場合,次々の自転車を構成するパーツを交換して楽しむ,という方向に傾いていくように感じます(まさにおいらが典型ですが・・・)。
つい最近,生命科学の本を読んでいて,このような状態を「動的平衡」と呼ぶことを知りました。
これで,自転車趣味の神秘性の一つが明らかになりました。
生物と無生物のあいだ
読んだのは,福岡伸一著の『生物と無生物のあいだ』という新書。
もともとは,川上未映子と各界の著名人との対談をまとめた『六つの星星』の中に登場してきていた本で,非常に興味をかられたので読み始めたものです。
突然ですが,私たちの体を構成する分子は,生涯を通して同じヤツが居座っていると思いますか?
皮膚や髪の毛,ヒゲなんかは明らかに違いますよね。どんどん新しいものが内側から作られて入れ替わっていますよね。
じゃぁ,骨はどうでしょうか。内蔵器官はどうでしょう?よくわからないですよね。
極めつけは「脳」です。多くの人が知っているかと思いますが,脳細胞は基本的に増殖も分裂もしません。だから,細胞レベルでは,新しいものと入れ替わったりすることはありません(ある意味,残念ですね・・・)。
しかし,驚いたことに,本当に驚いたことに,体中のあらゆる分子は,ものすごい早さで捨てられ,新しい分子を補充し続けているというのです。
一年ぶりに出会った人に「おかわりありませんねぇ」というのは正しくなく,「去年とはすべての分子が入れ替わっていますねぇ」というのが生物科学的には正しいのだそうです(!)
『六つの星星』の中で川上未映子さんは,「じゃあ半年前に約束した締め切りは,別の分子構造が約束したことなのでなかったことにできますかね(笑)」と言われていました(^^)
ルドルフ・シェーンハイマーの「動的平衡」
『生物と無生物のあいだ』では,書名からちょっとずれているのですが,ルドルフ・シェーンハイマーが「動的平衡」を発見したいきさつが書かれています。
窒素(14N)には重窒素(15N)という同位体があります。窒素より1個だけ中性子が多いヤツです。人工的に重窒素を入れ込んだ餌を,数日間,大人のマウスに食べさせてから解剖して(かわいそうだけど),重窒素がどこに行ったかを調べました。
重窒素のほとんどはエネルギーとして燃やされてしまうと予想していたのですが,半分以上がタンパク質になって,体中に散らばっていたことが判明したのです。
実験で使われたのは大人のマウスですから,タンパク質が「体の成長」に使われたわけではなく,体各部のパーツ交換のために使われているということです。
つまり,生命体を構成している無数の分子はスタティックな集まりではなく,常に入れ替わっているのです(驚!)
このことを,著者は,
私たち生命体は,たまたまそこに分子の密度が高まっている,分子のゆるい「淀み」でしかない。しかも,それは高速で入れ替わっている。この流れ自体が「生きている」ということである。
と述べています。実に驚いたことです。
私たちの体を構成する分子は,常に新しい分子で入れ替えられ続けているということなのです。細胞という単位では固定的なはずの大人の脳でも更新されているのです。
生命を構成している分子が体から抜け出し,それと同じ量の分子を体外から取り入れ,全体としてはバランスがとれている状態。これが,シェーンハイマーが発見して名付けた「動的平衡」という状態なのです。
自転車における「動的平衡」について
べらぼうに長い前フリでしたが,いったい,自転車イジリとどう関係してくるのか?勘の良い方なら,もう気が付いておられることでしょう。
そう,「自転車は生命体である」ことを発見したのです。
最近でこそ「LOOK号」という愛称で呼ばれている我が愛車ですが,これは紛れもなく「LGS RHC」というルイガノのロードバイクです。
2007年4月のLGS RHC号。まだ産まれたばっかりです(^^)
それにしても,デカイハンドルだなぁ・・・。あと,サドルが高すぎでは?
LGS RHCを構成している,タイヤやホイール,ブレーキ,ハンドル,クランクなどの分子は実に高速に入れ替わり(笑),約2年でほとんどが別物になりました。
2年後のLGS RHC号
ホイール,タイヤ,チューブ,ハンドル,バーテープ,ステム,クランク,ペダル,シートポスト,サドルバッグ,ケージ,前ブレーキ,チェーン,RDプーリーなどが多少入れ替わっています。
さらに,今年の春には,わりと大きめの分子である「フレーム」も入れ替わりましたが,やはり,全体としては動的平衡を保っており,誰が見てもLGS RHCの2007年モデルです。そう,意地でもLGS RHC号です。
今年3月のLGS RHC号。
フレームとホイールだけ少し変更しました。あ,バーテープもダ(^^)
数々の構成分子が抜けていきましたが,同じ数だけの分子が入れ替わりに入ってきました。
決して,ハンドルが2個になってしまったり,タイヤが8輪になったりはしていません。
LGS RHC号は,動的平衡を保ったまま,4年目に突入した今もロードバイクという生命体として,そこに存在してくれているのです。
最新のLGS RHC号はこの状態。
タイヤ,サドル,ペダル,バーテープ,ステム,STI,チェーン,スプロケット,RDが入れ替わりました。
生命とはなんなのか?
動的な平衡を保つとはどういうことなのか?
どこまで交換しても,もとの自転車だと言い張れるのか?
どこまでだったら,家族に許されるのか?(笑)
なぜ,プロと同じ機材なのに,ヤビツで40分を切れないのか?(涙)
このような知的な探求心を満たすために,世のロードバイク乗りの約半分は,自転車パーツイジリにはまりこんでしまうのでしょう。きっとそうです。
実に崇高な知的活動です(^^)
以上,やったらと長く,かつ,アカデミックなフリをしつつ,自転車パーツ交換の理由を合理化する(言い訳ともいう)ネタなのでした(笑)
おつきあいいただき,ありがとうございました~
久しぶりに,なんの役にも立たない長文を書いてしまいました(@スタバ)
(おまけ)
お台場の科学未来館で見つけた,DNA情報をデコードしてアミノ酸を作り出す仕組みを説明した絵。妙にかわいい(^^)
同じく科学未来館に展示してあったボード。大事なリボソームがいないけど,絵がかわいい!
Nikon D90 + TAMRON 17-50mm F2.8- ■「自転車コラム」カテゴリー内の前後記事