ヤビツ後半の「ヘタレ」を科学的に検証してみる

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菜の花台以降の後半。これがまたキツイのよ・・・。

菜の花台以降の後半。これがまたキツイのよ・・・。

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最近,しょぼい「つぶやき」ばかり掲載していましたが,久しぶりのロング記事です(笑)


いよいよヤビツアタックの好シーズンを迎えつつあります。

GW中には2回くらいはアタックしたいなぁ,と思っているのですが,以前から気になっていることがひとつあります。

それは,「おいらは,ヤビツアタックの後半,どれだけヘタレているのだろうか?」ということです。

いつも,菜の花台展望台(8.4km地点)から先がとても苦しいのですが,どれくらいのパワーを出せているのか,検証してみることにしました。

【2012.4.25追記】
計算用のシートをダウンロードできるようにしました!


簡易パワー計算シート

たぶん,大丈夫だとは思うのですが,自己責任で使ってみてくださいね(^^)

努力(心拍)と成果(パワー)

多くのロード乗り,すくなくともタイムアタックをするような変人(笑)は,心拍計をつけているかと思います。

心拍を把握することで,自分の頑張り度合いが数値でわかるので,「いけね飛ばしすぎだ」「いや,まだイケる」という判断材料になります。

しかし,心拍が高いからといって,高い出力が出せているかというと必ずしもそうではありません。

心拍は「体が全体的にどれだけ頑張っているか」を示してはくれますが,その頑張りが,どれだけ力となってペダル・車輪に伝わっているかは示してくれません。

ギアを猛烈に軽くして超高ケイデンスにすれば,心拍は上がりますが前に進みませんし,極端な話,停車した状態で上半身だけ激しい運動をすれば心拍だけは上がっていきますし,目前を超ミニスカートのお姉さんが走っていても同じ状態になります(笑)

また,速度が遅いからといって出力が低いとは限らず,勾配が大きく関係してきますし,高速度領域では空気抵抗が大きくなり,ますます,「どれだけ出力を出しているか」は判らなくなっていきます。




一方で,プロや上級者が使うパワー計は,「どれだけ出力を出せているか」を直接測るため,タイムと直結しています。出力が高ければ,必ず良いタイムになります(続けばですが)。

なので,心拍計だけでデータ分析をしていると,「頑張っている割にタイムが伸びない」という現象を把握しにくくなります。

ま,「残業ばかりしているけど成果が出ない」という,ダメサラリーマンのおいらみたいな状態を見抜けない,ということです(笑)


パワーを計算してみよう!

心拍だけではあてにならないので,パワーも計測すればいいのですが,ご存知のとおり,パワー計はとても高価。

今からPowerTapを使ってみたくなったとしても,高いPowerTapを購入した上,ホイールをばらしてハブを交換する必要があり,とても,子持ち&ローン持ちサラリーマンには現実的ではありません。

そこで,ふじいのりあき氏の『ロードバイクの科学』を参考に,過去の走行記録から,その時々のパワーを計算で出してみることにしました。



計算の基本は,

パワー = 全抵抗×速度×9.81
全抵抗=空気抵抗+転がり抵抗+登坂抵抗

です。

それぞれ,以下のように計算することができます。



空気抵抗

高速走行時には最大の敵になる空気抵抗ですが,素人のヒルクライムレベルではそんなに大きな値にはなりません。

が,ヤビツの序盤や富士ヒルクライムの終盤のように30km/hを超えるような場合には,その値は急に大きくなります。

空気抵抗は体型やライディングポジションによるところが大きいですが,実験結果から,以下のような式で近似できるそうです。

空気抵抗=0.00007638×体重0.425×身長0.725×速度2

ただし,空気抵抗(kgf),体重(kg),身長(cm),速度(m/s)

さらに,ブラケットポジションであることの補正(下ハンより大きい)と,高地補正(低地より低い)をします。

ブラケットポジション補正=100/80=1.25
高地補正=0.752(気圧差。適当)



転がり抵抗

タイヤが地面を転がるときに地面から受ける抵抗です。

地面に垂直な力×転がり抵抗定数で求められますが,転がり抵抗係数はタイヤの種類や空気圧によって異なります。

しかし,後述する登坂抵抗に比べたらお話にならないくらい小さい(1/20くらい)ので,適当に「えいや」で0.00421という,一般的な値を採用します。

転がり抵抗=(体重+車重)×cos(sin-1(高度差÷距離))×0.00421

ただし,転がり抵抗(kgf),体重・車重(kg),高度差・距離(m)




登坂抵抗

お待たせしました(笑),いよいよ,我らヒルクライマーの最大の敵,登坂抵抗です。

こいつを乗り越えるのは大変ですが,計算は超簡単。斜面の下方向に引っ張る力ですから,以下の式で出せます。

登坂抵抗=(体重+車重)×高度差÷距離

ただし,登坂抵抗(kgf),体重・車重(kg),高度差・距離(m)




合計抵抗

これで,ヒルクライマーの3大敵の,空気抵抗,転がり抵抗,登坂抵抗がそろったことになります。

後は,これをパワーに変換してあげればいいだけです。

それぞれの抵抗はkgfで出しているので,これをW(ワット)に変換してあげると,

パワー(W)= (空気抵抗+転がり抵抗+登坂抵抗)×速度÷9.81

ただし,各抵抗(kgf),速度(m/s),9.81は重力加速度

これで,ようやく,求める「パワー(W)」が得られました。




ヤビツに当てはめてみたよ!

『ロードバイクの科学』では,乗鞍(マウンテンサイクリング in 乗鞍)でのタイム向上をテーマに,コース全長での必要パワーを計算し,そのパワーを達成するためには何をどうすればいいのか,を議論しています。

たとえば,体重を1kg減らせば,どれくらいの必要パワーが減少し,それによって,どれだけタイムが伸びるかが判ります。

今回のおいらの検証の目的は,「ヤビツの後半でどれだけヘタレているのか」ですので,ちょっと使い方が違います。

おいらは,ヤビツアタックの際に1kmごとの自動ラップを刻んでいるので,1kmごとの高度変化(=勾配)とタイムをデータとして持っています。

この2つの値を使って,どれだけの平均パワーを出していたかを,1km区間ごとに計算して表・グラフにしてみました。

せっかくなので,自己ベスト(2011年5月8日,40分20秒)のときと,ヘタレのとき(2011年9月25日,44分44秒)で比較してみることにしました。



検討諸条件

計算に必要な値を以下のように見積もりました。

項目数値備考
体重58kgウェア・メット込み
身長175cm空気抵抗計算用
バイク重量8kgドリンク込み

また,当日のEdge705のデータから,1km区間ごとの距離・タイム・高低差を求めます。

■自己ベスト(40分20秒)時のラップデータ

ラップNo.距離(m)タイム(分:秒)高低差(m)
110002:5647
210002:1926
310002:3032
410003:4571
510004:1067
610003:1551
710003:2048
810004:0065
910003:5960
1010004:0970
1110003:1549
12820.42:4343
合計11820.440:20629


■自己ベスト(44分44秒)時のラップデータ

ラップNo.距離(m)タイム(分:秒)高低差(m)
110003:0747
210002:3223
310002:4828
410004:1168
510004:3074
610003:2353
710003:3052
810004:2568
910004:1061
1010004:3267
1110003:5959
12946.83:3643
合計11946.844:44643



いよいよパワー計算!

上述の貴重な(笑)データを下に,両アタック時のパワー(W)の変化をグラフにしてみましょう。

もちろん,こんな計算を手でやっていては大変なので,偉大なExcelさんの力を借りて計算。

いずれ,ダウンロードできるようにしたいです。

いずれ,ダウンロードできるようにしたいです。


【2012.4.25追記】
計算用のシートをダウンロードできるようにしました!


簡易パワー計算シート

たぶん,大丈夫だとは思うのですが,自己責任で使ってみてくださいね(^^)




この,お手製計算シートにより,以下のようなグラフを得ることができました。

自己ベストとワースト2の比較。後者は見事にヘタレています・・・。

自己ベストとワースト2の比較。後者は見事にヘタレています・・・。



ついでに,自己ベスト時の心拍とパワーの関係も描いてみました。

自己ベスト時の,パワー & 心拍の関係

自己ベスト時の,パワー & 心拍の関係



おぉ~,ついに出会えたよ,パワー変化!(^^)

パワー計を使えば一瞬で判るものを,えらい手間かけて出したもんです(笑) また,出来上がってみると「ふ~ん」みたいな感じもしないでもない。

しか~し,このグラフをよく見ると,面白いことがいろいろ判ります。

ダメな時は本当に後半ヘタレている(笑)
ヘタレ時のデータでは,後半で見事にヘタレています。ラップNo.6,丸坂を過ぎたあたりをピークに,どんどん出力が下がっていき,11で僅かに頑張るも,ラストの12ラップでは野たれ死んでいることが判ります(笑)
ラップNo.4
どちらのアタックも,ラップNo.4の出力が高くなっています。ここはちょうど蓑毛の激坂区間であり,ここで相当なパワーを出していることが判ります。逆に言えば,ここで出しすぎるから,後半バテているのかもしれません。
ラップNo.2,3
序盤の,お豆腐屋さんを過ぎてデイリーヤマザキあたりの,比較的勾配が緩い区間です。いつも,この区間はフロントをアウターにかけて頑張っているのですが,「頑張りすぎてるかな?」と思っていました。が,データで見る限り,そんなに無茶に飛ばしているわけではないことが判りました。問題はやっぱりラップNo.4です。
(今さらながら)ヤビツの後半に山がある!
以前からNoguさんが言っていることですが,菜の花台(8.4km地点)の後半に激坂ポイントがあります。前半の蓑毛激坂区間で参ってしまっているので気が付きにくいですが,実は後半にも大きな山場があることがわかります。区間平均で見れば,両地点は同じ勾配ですから,どちらも同じ出力が出せるよう,前半の蓑毛激坂区間は,もう少しセーブして走るべきだと思われます。
やっぱり,心拍とパワーは直結していない
自己ベストの時の心拍は,一本調子で上がっていっています。前半は努力しないで高パワーを得ていて,後半はしんどくなって心拍が上がっていっている感じです。それにしても,この時の心拍変化は美しいなぁ(笑)

例にしたのが,自己ベストと自己ワースト2ですから,その違いが大きくて楽しいグラフになりました。

長~い蓑毛の激坂。ここで大量のパワーを使っちゃうんだなぁ・・・。

長~い蓑毛の激坂。ここで大量のパワーを使っちゃうんだなぁ・・・。

RICOH GX100

自己ベストのときは,前半頑張りすぎるものの,後半徐々に出力を増やしていっている様子が判り,見ているだけで心拍が上がりそうです(笑) このときは,後方から追撃されていたので,限界を超えて頑張っていたことを思い出します。


まとめ

以上,とて~も長い記事になりましたが,ヤビツアタックヘタレ検証はおしまいです。

リアルタイムでパワーを見ることはできませんが,区間ラップさえ取っておけば,家に帰ってからこんな風にニヤニヤ分析をすることができます。

別に1km単位にきっちり計測する必要は無く,1合目,2合目みたいな感じで,適当にラップを刻んでいっても大丈夫です。

ただ,Edgeの場合(Polarもですが)気圧高度計の誤差が割と大きいので,短いラップ区間にすると,高度の誤差が無視できなくなるので要注意です。最低でも1km区間がよろしいのでは?と思います。

次回は,FHCのパワー計算(&応用)の予定。

お楽しみに~(^^)

【2012.4.25追記】
パワーの簡易計算シート(お手製)をダウンロードできるようにしました。

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ロードバイクの科学―明解にして実用!そうだったのか! 理屈がわかれば、ロードバイクはさらに面白い! (SJセレクトムック No. 66)
いつも,とても役に立ってくれます(^^)

2012年04月23日 | カテゴリ:  ヤビツ峠 | ID: 10317
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