長尾 藤三『快感自転車塾―速くはなくともカッコよく疲れず楽しく走る法。』

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久しぶりに楽しい,いい,自転車本に巡り会えました。

著者である長尾藤三さんの主張は,本書のタイトルに象徴されています。

そう,「早くはなくともカッコよく疲れず楽しく走る」ための本なのです。

本書の後半にはMTBも出てきますが,7~8割はロードバイクのお話。

となると,普通は「いかに速く走るか」や「ライバルをぶち抜くブレーキングはこれだ!」といった,とにかく速く走ってライバルに勝つ!という内容になるかと思います。

実際,多くの雑誌や入門書では,最新鋭の機材と速く走るためのライディングテクニックが,これでもかというくらい紹介されています。

しかし,正直言って,「そんなに速く走らなくてもいいんだけどナ」とか「いや,もうお腹一杯です」という読者(ライダー)もいるのではないでしょうか。

世の中全体が,速い=カッコイイ,遅い=カッコ悪いという図式に単純化されています。まして,「ロードレーサー」と呼ばれることもある乗物ですから,速く走ることは当たり前のように思われています。

ところが,著者は,そんな速度第一のロードバイク界にあって,「速くなくてもいい,というのは勇気が要る」と言いながらも,第1章の冒頭ではこんな風に書いています。

ジテンシャは自分のペースで走るもの。
速いの,遅いのと,他人と比べることはないのです。
誰かと競争して「勝った,負けた」は卒業しよう。
勝たないとつまらないなんて貧しい考え方から抜け出そう。
流れる雲は,速いほどエライなんて思わない。
流れの速い川が,ゆったりと流れる川より高級ということもない。
速く走れるなんて,速メシ,速グソ程度のことと考えて,
せかずあわてず,悠々と走りましょう。
(p19)

そう,こんな単純で大切なことに改めて気が付かされる,そんな自転車本なのです。


しかし,「速くなくてもいいも~ん」とダラダラ走っているわけではなく,「カッコ良く」「疲れずに」走れる,いろいろなコツや方法を教えてくれます。

BB~シートトップは股下×いくつで,なんていう細かい話は出てきませんが,例えば,「ドロップハンドルは下を持つのが基本です。慣れておかないと下り坂で困ります」という具合に,その理由を説明してくれます。

また,「ブレーキングは全身でするもの。レバーの操作はその一部でしかない」という出だしで始まるブレーキの使い方の章はとても役に立ちました。どうしても,バイクに乗っていると,シートにどっかりと腰を下ろしてしまい,レバーだけで何とかしようとしてスリップしてしまったりしますが,ちゃんと重心を後ろにずらして初めてブレーキになる,ということを説明してくれます。


中盤では,疲れずに長く乗る方法や,MTBの世界などが紹介され,最後は自分にとっての自転車とは何か,という章で終わります。

ノウハウが満載された本ではありませんが,電車やお風呂(おいらだけか?)でのんびりと読み,自転車でのツーリングに思いをはせるのに最適の一冊です。

最近,遠出していません。行きたいなぁ・・・。

最近,遠出していません。行きたいなぁ・・・。

RICOH Caplio GX100

遠くまで走るには「疲れない」の他にも,ある程度は速く走る必要がありますし,やっぱり,基礎的なライディングテクニックやセッティングは学ばなければならないとは思います。

でも,そればっかりじゃつまらないし,長続きしない気がします。巷の雑誌や単行本では,こういった,末永~~~く自転車生活を楽しむための記事をあまり見かけない中,本書は貴重な存在です。

とは言いながら,他人抜かれたりすると「んが~!」っとパワー全開で抜き返さないと気が済まない幼稚なおいら。まだまだ修行が足りません。残念ながら体力は下り方向に向かいつつある我ら中年こそ,こんな本を読んで目を覚まし(?),もっともっとロードバイクの楽しさを発見して続けていけたらなぁ,と思いましたicon:h1


【追伸】
一点だけ,おいらと合わないところもあります。おいらはサイコン大好きなのですが,著者は「サイコンは外しなさい」と書かれています。コンディションや速度は全部体で感じるべきであり,数字に囲まれて走るのはつまらないものだ,と。

んが,機械やコンピュータが好きなおいらからすると,これはまたこれで楽しかったりするのです(^^) 特にPOLARの高度計や温度計,傾斜計なんかが「おぉ~,おいらもココまで登ったか!」というのが実感できて大好きです。

【2008.12.23 追記】
同じ著者の『おじさん 自転車講座』という本を図書館で借りてきました。楽しみに読んでみましたが,「車やバイクに乗る奴ら=馬鹿者である」という,ちょっと一神教的な過激さがあります。自転車が楽しく,クリーンなのは確かですが,世の中から車が一台もなくなったら,とても暮らすことはできないし,たぶん,自転車も作れないと思います。94年発行とかなり古い本なのですが,15年の間に,著者もだいぶ柔らかくなられたのだなぁと思いました。ひょっとすると,これもまた自転車のおかげかな?

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快感自転車塾―速くはなくともカッコよく疲れず楽しく走る法。
自転車を末永~く楽しむ本です♪

2008年12月18日 | カテゴリ:  | ID: 1172
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