2014年7~8月の読書記録

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すっかり「2ヶ月に1回」が標準になってきた,月間読書記録。

今回も,7,8月まとめての読書記録です。

この2ヶ月は,6月に引き続き,奥田英朗を読み続けていました。

色んな小説(短編・長編)を読むにつれ,よく言われることですが,奥田英朗という作家の描く物語の幅広さにただただ驚くばかりです。

伊良部病院シリーズ()から読み始めたので,バカ面白い小説家なのかと思っていたら,『無理』や『最悪』のようなシリアスなクライム小説があるし,『サウスバウンド』や『真夜中のマーチ』のように軽く楽しいエンターテイメント小説もあります。

はたまた,社会の男女を異なる目線から眺める『マドンナ』や『ガール』のような,読むたびに「そうそう,そうなんだよ!」と同調してしまう短編集もあります。

(★は勝手な評価で,3個で満点です♪)

書名・著者・評価プチ感想
最悪 (講談社文庫)
『最悪』
奥田英朗

★★★

主人公は3人の男女。それぞれが,面倒な悩み(不況の町工場,セクハラ,ヤクザ・・・)を抱えているのですが,その3人が偶然に出会ったところから物語は急加速してエンディングに向かう。

後半の加速ぶりはものすごいものがあるのですが,それ以上に,主人公達の日常の追い込まれブリの描写がすごい。特に,町工場の社長さんは,普通に仕事を頑張る人なのに,次から次へと面倒なこと(不況,不良品,不良社員,借金,癒着,近隣住民,裁判,怪我,などなど)が襲い掛かり,本当に「最悪じゃ~!」という状況に追い込まれていきます。

他の2人の追い込まれ方もものすごいのですが,この「追い込まれ感」の描写がすごいからこそ,後半の,ジェットコースターのような展開が生きてくるのだと思います。

決して,超ハッピーエンドというわけではないのですが,題名の「最悪」とは全く違い,とても楽しめた小説でした。

無理〈上〉 (文春文庫)
無理〈下〉 (文春文庫)
『無理』
奥田英朗

こちらは『最悪』の後に出た小説で,おいらもその順番に読みました。

『最悪』と同じように,5人の主人公達がどんどん落ちていく話ですが,違うのは,主人公達が住む地方都市「ゆめの」の閉塞感が前面に出てきていること。

コレといった産業がないことから,若い者は東京を目指すか,地元に残って燻ぶる。知った顔ばかりの狭い世界で,市議の地元業者の癒着,生活保護の不正受給,売春,新興宗教に引きずりこまれる主婦,引きこもりの異常者,たちがバラバラに描かれていくのですが,とにかく暗い・・・。

最後まで閉塞感たっぷりで,『最悪』のような爽快感はなく,「なんとかならんもんかな・・・」という思いが募ってしまいます。

ガール (講談社文庫)
『ガール』
奥田英朗

★★★

男目線で書かれた『マドンナ』と対になる,女目線の『ガール』。

30代の働く女性を主人公にした短編集。男だって多少はありますが,30代の独身女性は,一人で居ることへの不安や焦り,嫉妬や羨望,男が思う以上にいろんな悩みを抱えて生きている。そんな姿が描かれています。

多くの短編も,「半沢直樹」のように,痛快な反撃やセリフで終わっているのですが,それはコメディでやっているのではなく,それぞれの女性が信念や強い思いを持っているから。女性だけではなく,自分にも当てはまる,いや,当てはめなきゃなぁ・もっと戦わなきゃなぁ,と思うことが多々ありました。

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)
サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)
『サウスバウンド』
奥田英朗

★★★

「元過激派の父を中心とした家族の物語」と書くと,なんか物騒ですが,とにかく楽しいエンターテイメント作品。

税金は払わない,学校に行く必要は無い,国には頼らない。行く先々で,社会の「常識的な人たち」と衝突ばばかりする父。そして,そんな父に振り回される,小学生の自分をはじめとする家族。

東京での生活に別れを告げ(それも,ものすごい速さで),西表島に移住するのですが,そこでも新たな戦いを始めます。このバカオヤジは本当に困った人なのですが,その主張はとても青臭いのだけど,いつも社会のゆがみに真正面から向き合う(だから青臭いのか)正論ばかり。そんなバカオヤジと暮らすうちに,母が父のどこに惹かれたのか分かるようになり,そして,自分も父を見直すようになり・・・,なんて真面目な話はほとんどなく,とにかく破天荒で楽しいバカオヤジの活躍ぶりと,小学生の自分の心の変化が楽しい。読後も爽快です(^^)

真夜中のマーチ (集英社文庫)
『真夜中のマーチ』
奥田英朗

★★★

単純に面白いです!

怪しいパーティー屋,商社のボンクラ社員,そして謎の美女クロチェ。この3人が出会い,10億円を強奪(しかもスマートに)という壮大な計画に着手する。

よく言われることですが,『最悪』『無理』を書いた同じ作者とは思えないくらい,軽い,楽しい,明るいエンターテイメント小説です。

二転三転するストーリもー面白いですが,とにかく,著者のどの作品にも共通するように,とにかく登場人物たちの描写が実に面白い。小さなギャグや,滑稽な振る舞いが随所に出てきて,本当に面白い。ストーリーだけで語る作家が多い中,こういう,人間描写力(?)が卓越した著者だからこそ,面白さが倍増しているのだと思います。

男2+美女1という組み合わせが,浅田次郎の『ハッピー・リタイアメント』と共通するのも興味深いですが,おいらは,もちろん,謎の美女,クロチェの大ファンです。クールなくせに,かわいいんです(^^)

ウランバーナの森 (講談社文庫)
『ウランバーナの森』
奥田英朗

★★

小説の中では明言されてはいないけど,主人公「ジョン」はジョン・レノンのこと。彼が,静養先の軽井沢の別荘で,便秘で苦しむところから物語は始まります。

物語の間中,ジョンは便秘で苦しみ続ける(笑)のですが,彼は高原の霧の中で,自分の記憶から消してしまいたいくらい,会いたくはない故人たちと出会う,不思議な体験を重ねていきます。

その一人ひとりと,語り合い,殴り合い,ごめんなさい,ありがとう,好きだよ,という言葉を交わし,徐々にゆっくりと心のわだかまりが解けていきます。

そう,カチカチに固まった便秘がとけていくように(汚ねぇ~,笑)

またもや,浅田次郎の『降霊界の夜』を少し思い出してしまいました。

家日和
『家日和』
奥田英朗

普通の家族におきる,ちょっとした変化やトラブルがつづられた短編集。

ネットオークションにはまるうちに,夫の「宝物」まで出品してしまい,予想外の高値に戸惑ってしまう主婦。ロハス的なモノにはまっていく妻と周囲の人に追い詰められていく作家(たぶん,著者自身。笑)。どれも,著者ならではのユーモアたっぷりの文章で楽しめます。

ただ,今まで読んだ他の小説(短編・長編)に比べると,イマイチ,記憶に残らなかったなぁ。ちょっと軽すぎかな?

ララピポ (幻冬舎文庫)
『ララピポ』
奥田英朗

「性」に突き動かされる,振り回されていく人たちを描いた物語。

まぁ,一言で言えば,エロ小説です(笑) ほぼ全ページにわたり,エロワードが書かれているので,電車内で読むのはかなり困難。

主人公は,AVや風俗専門のスカウトマン,それにつかまるOL,エロ小説家,デブ専女優,ゴミ屋敷在住の熟女AV女優などなど。

テーマは全然異なるのですが,なんとなく,『無理』の主人公達のように,這い上がりたくてもどうにもならない,落ちていく人たちを描いている気がします。地方都市から抜け出したい『無理』と,性に振り回されてどうにもならない『ララピポ』。

なので,やっぱり,読後感は「なんとかならんもんかな・・・」というものになってしまいました。

砂漠 (新潮文庫)
『砂漠』
伊坂幸太郎

さすがに10冊以上も奥田英朗を読み続けていると疲れてきたので,息抜きに読んでみました。

んが,以前は,あんなに「面白い!」と思っていた伊坂幸太郎ですが,全然頭に入ってきません。

それもそのはず,人間描写が非常に巧みな奥田英朗に比べ,あえて意図的に感情を殺したドライな主人公を得意とする伊坂幸太郎では,真逆すぎます(笑)

なので,ストーリーはそれなりに面白いのですが,5人の学生主人公たちのドライな描写のおかげで,読後の感想も「ふ~ん,悪くはないかもね」というドライなものになってしまいました。

伊坂作品は,どれも「超感動!」というものはありえませんから,この反応でちょうどいいのかもしれませんが。でも,嫌いじゃありませんから,たぶん,また読みます(^^)

なんとなくですが,奥田英朗の小説を読み続けるうち,おいらが好きな他の作家達の作風が多く現れているのでは?ということに気が付きました。

横山秀夫が得意とする,組織の中で追い詰められていく男。
重松清が描く小学生や中学生(特に男子)。
浅田次郎のおっさん的視線(?)や,ホロリと泣かせる小話。

どれも,おいらが好きな要素であり,それらをうまく配分されているのが奥田英朗。

幸か不幸か,著作はまだまだ沢山あるので,来月以降も,しばらく奥田英朗シリーズが続きそうです。

こりゃ,しばらくは読み続けることになりそうだなぁ(^^)



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2014年09月03日 | カテゴリ:  | ID: 11153
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