ヘッド周りでいろいろ起きました(ステムボルト破断事故編)
今回は作業中でしたが,走行中にこうなったとしたら・・・(怖)
Nikon D90 + SIGMA 50mm MACRO F2.8第1話で紹介したとおり,初めてのヘッドセット分解掃除を終え,慎重にステムの固定ボルトをトルクレンチで締めていたところに,突然の事件が発生しました。
「バキ~ン!」というバカデカイ音とともに,締めていたボルトが破断したのでした。
おいらのロードバイク人生(5年だけど・・・)で,初のボルト破断事故。
いつものように,Shiro家内に自転車事故等調査委員会(座長:おいら,委員:おいら)が設置され,ボルト破断事故の原因究明が進められました。
長いけど,要するにこんなお話です(^^)
- ステアリングコラムにステムを固定する作業をしていて,ボルトを破断
- 8Nm指定のところ,7Nm付近で破断してしまった
- 材料工学に詳しい知人に見てもらったところ,繰り返し同じボルトを再利用(10回)したことが原因の模様
- そもそも,ボルトの細さに対して指定トルクが高すぎる気もする
- 破断事故例報告もあることから,Dedaを使い続けるのが怖くなってきた・・・
今回は,作業中の破断事故だったのですが,これが走行中だったりすると,いくらDHが遅いおいらでも無傷ではいられないでしょうし,下手したら大事故になっていたかもしれません。
というわけで,フォトポタ日記にしては珍しく,真面目に破断事故原因を探ってみることにしました。
破断状況の詳細
破断したボルトの諸元
破断したボルトは,ステム(DEDA ZERO 100 SC)のコラム側固定ボルト2本のうち,上側のボルトです。
ステムを購入したときに付いてきたボルトです。
このボルトが破断しました。
Nikon D90 + Nikkor 35mm F2D項目 | 内容 |
---|---|
タイプ | 六角穴付きボルト |
サイズ | M5(4mmアーレン) |
材質 | SUS304(と思う) |
ボルトの運用状態
当該ボルト(とステム)は,現在に至るまで以下のように運用してきました。
項目 | 内容 |
---|---|
使用開始時期 | 2010年5月 |
締め付けトルク(コラム側) | 約7N・m (ステムの最大トルク指定は8N・m) |
締め付け方法 | トルクレンチにて上記トルクまで締め付け |
着脱状況 | 高さ調整やセンタリング調整などで10回程度着脱し,そのつど,ボルト・ワッシャともに再使用 |
ボルト破断の経緯
フォークのメンテナンスで外したステムを取り付けるため,トルクレンチで締め付けている最中に破断しました。
トルクレンチは前述のとおり,最大トルク8N・mを少し下回る7N・mに設定してあり,そのかなり手前で破断したため,5~6N・m程度の小さなトルクで破断したと思われます。
また,ちゃんと,上下2本の固定ボルトを交互に徐々に締め付けていました。
グリスを塗っていたおかげで摩擦は小さく,ピンセットと精密ドライバーを駆使して,折れて穴に残った部分は抜き去ることができました。
ボルト破断の状況
破断の状況をよく観察すると,以下のような状況です。
破断面を見る。垂直にスパッと切れた感じ。
Nikon D90 + SIGMA 50mm MACRO F2.8
項目 | 内容 |
---|---|
破断箇所 | 雌ネジとの嵌め合い部の第1ネジ山 |
破断方向 | ボルト軸方向に対してほぼ垂直 |
破断面の様子 | ざらざらしている |
雌ネジと雄ネジの嵌め合い部で,垂直に,スパッと,文字通りねじ切れている感じです。
材料工学の専門家のご意見
こんな風に整理してみたのですが,締め付けトルクはオーバーどころかアンダートルクですし,破断面を見ても特に何も見出すことができませんでした。
そこで,材料工学・破壊工学の専門家である知人(T君)に,上記のような運用状況を添えて破断写真を送って,見解を求めてみました。
T君はエンジンなどの大き目のブツを扱う専門家なのですが,写真をメールで送ってすぐに返事が来て,以下のような所見でした。
- 原因は疲労破壊(金属疲労)でしょう
- 破断面を(プロの目で)見ると,疲労破壊に特徴的な「ビーチマーク」が見えるとのコト。2年半にわたる運用中の応力変化で疲労が蓄積したと推定される。
- ボルトの再使用はダメ!
- 一度使用したボルトは微視的には塑性変形している部分がある。そのため,再使用したボルトは軸力が十分に出なくて緩みやすくなり,疲労破壊を起こしやすくなるので,再使用は好ましくない。
- ワッシャの再使用もダメ!
- 一度使用したワッシャは,潰れ方に微妙な偏りがあるため,再使用した場合にはボルトの軸力低下につながる。毎回交換すべき。
- こんな細いボルトで大丈夫?
- ハンドル・ステムという命を預かる部品の固定用として,M5ボルト2本というのは,細すぎる気がする。M6にしたり,M5×3本にした方がいいのでは。
強度限界を超えての破壊ではなく,じわじわと壊れていく「疲労」では,破断面に皺のような模様が見られ,これを「ビーチマーク」といいます(これは,おいらも知っていました)。
素人であるおいらは,破断面を見ても何も見出せなかったのですが,日夜,研究所で破壊物品を見続けているT君の目にはうっすらとビーチマークが見えるとのコト。
拡大してコントラストを上げる。うっすらと,右上から左下に線が見える・・・?
Nikon D90 + SIGMA 50mm MACRO F2.8また,強度限界の1/3程度の力があれば疲労蓄積が始まり,力の大きさによって左右されますが,1,000~100,000回程度の繰り返し応力(力がかかる,抜けるの繰り返し)があれば,十分,疲労破壊するとのこと。
さらに,
仮に1日運転して100回?ハンドルに衝撃的な力が繰り返し加わり,年間120回の休暇のうち50日運転していれば,2年で10,000回の繰返し応力をボルトは受けています。疲労破壊を生じるなら,その繰り返し回数は1,000~100,000回程度と言われており,10,000回での破断は妥当な数字かもしれませんよ。
とのこと。
T君は自転車はやらない人なのですが,ここまで詳細においらの行動パターン(年間50日運転)まで見抜かれているとは,ひょっとしたら,隠れフォトポタ日記リーダーか!?
また,おいらの「チタンボルトにしたらどうなるの?」と聞いたら「死ぬ気ですか?」とのことでした(笑)
なんでチタンボルトじゃだめなのか,もうちょいと詳しく聞いてみました。
T君は,市場に多く出回っている「純チタンボルト」のことを言っていました。SUSより弱いので,こいつを掴まされたら今より破断しやすくなってしまい,死にますよということ。
また,腐食しやすい環境ではないし,疲労に対する耐性がチタンとSUSでそんなに大きな差が無いので,チタンを使うより,太いボルトにするか,細くして本数を増やしたほうがはるかに丈夫に作れるとのこと(T君は自転車乗りじゃないので,重量増加については興味なし・・・)
ただ,64チタン(チタン・バナジウム・アルミニウムの合金)なるボルトは,非常に強度があり,これであれば交換の価値は十分あるけど,非常にお高いそうです。
破断事故のまとめ
というわけで,現物を見てもらったわけではないので100%ではないですが(本人もそう言ってます),繰返し応力による「疲労破壊」の可能性が高そうです。
せっかく,メンテナンスで着脱しているのに,ボルト(ワッシャも)を再使用しているという,おいらのセコさが原因のようです(涙)
そういえば,雑誌『自転車人』の2012年冬号「自転車乗りのための工具基礎知識」特集でも,「ネジの再使用は5回が目安」と書かれていました。
深く反省しつつ,ご近所のホームセンターで新品のボルトを購入してきて,締めなおしました。
ホームセンターで,3本150円。
Nikon D90 + SIGMA 50mm MACRO F2.8見た目が悪くなったけど我慢(本人以外,絶対に気がつかないし。笑)
SONY NEX-5N + E30mm MACROもちろん,トップキャップ側も交換。左が新品。長すぎましたが・・・。
SONY NEX-5N + E30mm MACROいやはや,危ないところでした。
DEDAステムとのお別れ
今回は,ステムの取り付けボルトの破断事故でした。
しかし,以前,DEDAステム本体(トップキャップ)の破断事故についてのコメントをいただいたことがありました。
当時は,595号はカーボンハンドル・フォークのため,最大トルクより低め運用をしているので大丈夫かな?と思っていました。
今回,こんな事故(未遂)があったことから,改めてDEDAステムの破断事故についてネットで調べてみると,ものすごい数の事故例が報告されていました。
ショップによっては,「DEDAはトップキャップが破断しやすいので,破断したら交換しますよ♪」という,恐ろしいコメントまでありました。
交換する前に,あの世に行っている可能性があるんですが・・・。
ただ,科学的,工学的に分析された記事は無く,また,製造元も瑕疵を認めていないようなので,あくまでも推測であり,風評の域を出ないのかもしれません。
が,やっぱり,現実的に自分の自転車で事故(未遂)を経験してみると,背筋が寒くなってきました。百聞は一見にしかずです。
デザイン的には,最高に気に入っているのですが・・・。
Nikon D90 + Nikkor 35mm F2DDEDAステムは,デザインがとっても気に入っているのですが,泣く泣く使用を取りやめ,2番目くらいにメーカーのステキなステムを,ポチッたのでありました(^^)
実に久しぶりの自転車パーツ購入です。
新ステムはまだ届いていないので,こちらの件はまだ後日(^^)
話はまだ続く・・・
とりあえず,ニューボルトで固定しなおしたステム(まだDEDAです)。
しかし,またも小さな事件が・・・(続く)
- 【2012.09.08追記】
- チタンボルトについて,補足しておきました。64チタンであれば強度が高いのでいいけど,すごくお高い。純チタンは強度が下がるだけなので論外とのことです。
- ■「ハンドル」カテゴリー内の前後記事
-
- 1件新しい記事:ヘッド周りでいろいろ起きました(ステム取付ミス編)
- 1件古い記事 :ヘッド周りでいろいろ起きました(ヘッドセット分解清掃編)